それは工藤邸限定の、予測不可能な嵐の到来だった。
家の中に自分と恋人以外の気配を感じて、意識が浮上する。
腕の中の恋人はすやすやと穏やかな寝息を立てて眠っていて、起きる気配
はない。
それが自分への絶対的な信頼の表れだとわかるから、その寝顔を見るだけ
で心は満たされた。
家の中を静かに動き回る複数の気配に敵意は感じられない。
恋人を起こさないように微動だにしないまま、快斗は意識だけを研ぎ澄ま
せた。
気配が、寝室のすぐ外まで近づいてきた。
念のため、トランプ銃をすぐ出せるようにしておく。
沈黙をカウントする。1、2、3…………
5、で扉が勢いよく開いた。
「新ちゃ〜ん!!!」
飛び込んできたのは栗色の髪の美女とダンディな髭を生やした男。それぞ
れ片手にビデオカメラと一眼レフ。
「………………」
「「………………」」
美女はぱあっと顔を輝かせ、男は思い切り顔を顰めた。
固まる快斗。腕の中には眠る新一。ちなみにシーツの下は二人とも裸だ。
「きゃあ! 快斗君と新ちゃんが一緒に寝てるわ!!」
「……え、っと、その。有希子さんと優作さん、ですよね」
「覚えててくれたの?」
「あ……はい」
半ば呆然としながらも、ほとんど条件反射で薔薇を差し出す。起きぬけで
も仕込みがあるのがさすがだ。
「まあ、ありがとう!」
すると、俄かに騒がしくなった室内に、さすがの新一も身じろぎした。
「ん……かい、と?」
「きゃあ、新ちゃん可愛いw」
「あ、新一……えっと、起きた方がいいかも………」
「ぅんー?」
新一がぼんやりと薄目を開ける。
すぐ近くに気まずげな快斗と、そしてその背後に―――
「ぎゃーー?!! ちょ、父さん、母さん?! 何でいんだよ?!!」
一気に覚醒した新一はガバッと起き上がった。
「あっ、新一っ」
快斗が慌てて止めるが、時すでに遅し。二人を覆っていたシーツがずれて、
肌色が露出する。
「きゃーw」
「………」
「し、新一……」
かろうじて大事な部分は見えてないが、そこには全裸で抱き合う二人の青
年とその親、という非常に何とも言い難い画ができあがった。
怒声やら黄色い悲鳴やら枕やらカメラのフラッシュやら、様々なものがひ
としきり部屋を飛び交った後。
今度はしっかりと服を着た新一と快斗は、リビングで夫妻と対面していた。
「本当に久しぶりね、快斗君。最後に会ったのが盗一さんのお葬式だった
から、12年ぶりくらいかしら」
「はい。お変わりないですね」
「あ〜ん、このお菓子もとっても美味しいわ。新ちゃんったら素敵な旦那
様を見つけたわね!」
「ぶはっ」
コーヒーを噴き出した新一に、慌ててティッシュを差し出す快斗。
快斗をじっと見ていた優作の目が鋭くなった。
「快斗君」
「はい」
「君は、新一の隣にいるということの意味がわかっているのかね。これは
強く美しいが、今まで好きにさせてきたせいか、時に甘く優しすぎるとこ
ろが―――」
「はいはい。いいじゃない優作、快斗君なら安心して新ちゃんを任せられ
るわ」
「ったく、何しに来たんだよ」
口元を拭いたティッシュを屑かごに投げ入れ、新一が嫌そうに顔を顰めて
問う。この二人が現れてから嫌な予感しかしない。
「ふふふ、その前にお客様が来るのよ」
「え?」
その時、タイミングよくチャイムが鳴った。
それはまたまた嵐を呼びそうな客だった。
「有希ちゃん、優作さん、お久しぶりね!」
「母さん?! 寺井ちゃん!」
「有希子様にお招きいただいたんですよ」
「お久しぶりです。千影さん、寺井さん」
新一が二人をソファに座らせる(寺井は渋ったが)。
「新一君、五月以来だわね。またご飯食べにきてね」
「坊ちゃまのこと、いつもありがとうございます」
「で? 母さんと寺井ちゃんはどうしてここにいるわけ?」
快斗が投げやりに問うと、有希子が笑みを深めた。
そしてびしっと指を二人につきつける。
「それはもちろん。婚前旅行よ!!」
一瞬の沈黙。
「「……婚前旅行?!!」」
キリ番1412のリクでした。
蒼依さまに捧げます。
2013/02/04
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