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『誰かに、似ているような気がして』


白馬に言われた言葉を反芻する。

そりゃ似ている顔つきの人間もいるだろう、現に自分だって双子じゃないかと
散々騒がれたのだから。

けれど、白馬がそういう意味で言っているのではないと、直感的にわかった。
そういう点では、ある意味白馬のことを信用しているのだ。

「誰かに似てる、ねぇ」

快斗はパソコンの画面にいくつもウィンドウを開いていた。
白馬の言葉が、工藤新一の秘密を知るための、何かの手がかりになるような気
がして。

「身長174cm、誕生日は5月4日。3年前の冬にデビュー……それ以前の所属や経
歴は不明……」

ここまでは、ファンなら誰でも知っている情報だ。

おそらく、白馬はまだ何かを知っている。
しかし確信が持てないから濁したのだろう。この業界では、不用意な発言は後
々厄介なことになりかねないし、簡単に口を滑らすような人間は生き残ってい
けない。

白馬は一体何を知っているというのか。

そこまでの会話の流れを思い返してみる。

何故だか白馬は、快斗が新一のことを好きなんじゃないかと疑っている。

白馬は新一のことが好きなのだろうか? その上での探り?

いや、そんな様子ではなかったし、本人もきっぱり否定していた。むしろ白馬
は、快斗のことを心配しているようでさえあった。

それより、白馬は快斗がゲイでもバイでもないことを知っているはずなのに、
何故そんなことを疑ったのだろう。
本当に、新一のあまりの美貌に、ノーマルの快斗でも新一に惚れる可能性があ
ると踏んだから?

――いやいやいや。いくらなんでも、男を好きになるわけない。

「あー、もう。わかんねぇ……」

わからないと言えば、何故自分がこんなにも躍起になって工藤新一の秘密を探
ろうとしているのかがわからない。
一歩間違えたら訴えられかねない行為だ。

「大体、紅子があんなふうに焚きつけるから……ん?」

自分の呟きに、ふと疑問がわく。

「紅子は確か、一緒に仕事をしたことがあると言ってたな」

何となく気になって、工藤新一の情報が載ったウィンドウを閉じ、代わりに新
しいウィンドウで『小泉紅子』を検索にかける。

やはりというか、モデル現役時代の印象が強いようで、写真やプロフィールな
どがずらりと並ぶ。

「はわぁー、若ぇなー。女王様なのは変わんねぇけど。何年前のだ、これ」

本人に聞かれたら殺されそうなことをぶつぶつ呟きながら、いくつかの検索結
果をピックアップしていく。

「うわ、これなんか8年前のかよ。そうそう、確かこの頃からすげぇ売れ始め
てたな、こいつ」

当時、快斗はまだ中学生か高校生か、そのあたりの年齢だった。
快斗自身は特に興味もなく、実は紅子のモデルとしての写真をじっくりと見る
のはこれが初めてなのだが、当時周りの友人たちは、女子も男子も、美しい紅
子が雑誌に載るたびに話題にしてはしゃいでいた気がする。

「……て、ちょっと待てよ」

紅子はその後しばらくモデルとして確実に成長していき、しかし海外進出も始
めようかという時期になって突然、引退してしまった。

その後芸能界のビジネスについて学び、今は若いながらも社長として大手事務
所を取り仕切っている。

自分が紅子にスカウトされてモデルを始めたのが大体4年前……と快斗はゆっく
りと思考を巡らせた。

「工藤新一のデビューは3年前……って、おいおい」

紅子が「一緒に仕事をしたことがある」というのは、間違いなくモデルとして
同じ現場に立ったことがある、という意味だろう。

普通、事務所の、それも大手の代表がいちいち現場に出向くことはないし、ま
して工藤はモデルでもなければ、所属事務所も違うのだ。

仕事の相手がこちらの事務所の人間だったとして、万一顔を合わせたことがあ
ったとしても、だからと言って「一緒に仕事をした」と言うのは、少し不自然
だ。

「ってことは、工藤はデビューより以前に、紅子に会っていて、一緒に仕事を
したことがあるってことか?」

そうとわかれば、次にやるべきことは、小泉紅子のモデル時代の仕事を調べ直
すことだ。
少しずつ絡まった糸が解けてきたのを快斗は感じた。



                 ***



『フッ。最も出会いたくない、恋人ってトコロかな』



「………あのー、監督」

第4話『黄昏の館』の最後のシーンを撮り終わると、快斗と新一は二人揃って
監督と脚本家のところへ行った。

二人ともが似たような顔で、似たような微妙な表情を浮かべているのだから、
まるで本物の双子のようだと監督は内心思った。

「ちょっとお伺いしたいんですが……」
「何だね?」
「怪盗キッドと千間さんの会話のところの台詞なんですけど……」
「ああ! とっても良かったよ、黒羽くん。意味深さが出てて!」
「あ、いや、その意味深な台詞なんですけど……なんかちょっと意味深すぎま
せんかね?」
「もちろんだよ! 今後の展開を予感させるような意味深さがいいんだ!」
「……今後の展開?」
「二人にはもっと強い信頼関係を築いてもらって、キッドと名探偵の仲を発展
させてもらわないとね! 期待しているよ」
「はぁ」




「………黒羽、なんか俺、嫌な予感しかしねぇんだけど」
「………同感」










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2012/07/25