綱吉の腹が空腹を訴えて鳴ったところで、とりあえず昼食にしようと、
みんなで屋敷内のダイニングルームへ向かった。
長い廊下を進んでいると、静かに二人の背後を歩いていたリボーンが、
二人にしか聞こえないほど小声で言った。
「やっぱりお前ら、ただの探偵とマジシャンじゃねーな」
二人はさっと視線を交わして、小さく振り返る。
「何でそう思うんです?」
「まず、気配だ。一般人にしては気配を殺すのが上手すぎる」
「なるほど」
マフィアのアジトの中だということに警戒心が働いて、無意識に気配を
薄くしていたらしい。
「それからその態度だ」
「態度?」
リボーンは頷いた。
「俺がツナの家庭教師だということに疑問を抱いていなかった。普通の
人間は、俺を見てまずそういう態度はとらねー」
「あー……」
確かに、見た目はどこからどう見ても小学校高学年くらいのリボーンに
対して、敬語を使ったり、緊張感のある態度はとらない。
「俺を一目見た時から気づいていたな。俺が、見た目通りのただのガキ
じゃねーことに」
「そりゃまあ、身近にそういう例がいましたからね……」
快斗がぼそりと呟いて、新一を見やる。
「見た目で判断することが危険なことくらい、わかってますよ」
「ふん。何か秘密がありそうだな」
「さあね」
ダイニングルームには長いテーブルがあり、人数分の皿とシルバーとグ
ラスが用意されていた。
「二人は俺の隣でいいよね」
綱吉が腰掛けたのは当然ながら上座で、本来なら右腕である獄寺とリボ
ーンがその両隣に座るはずなのだろう。
新一の躊躇に気づいて、綱吉が苦笑した。
「特に席の順とかは決まってないんだ。どこでもいいんだけど、俺だけ
は上座に座れってリボーンがうるさくて」
「それにオメーら二人は一応賓客扱いだからな。誰も文句は言わねーさ」
何か言いたげな獄寺を制するように、リボーンがそう言った。
そうして綱吉の右隣に新一、快斗、山本と並び、左隣にはリボーン、ビ
アンキ、獄寺という順で座った。
グラスに軽めのイタリアンワインが注がれ、和やかな食事が始まる。
「これが夜だと酒盛りみたいになるんだよ……」
「さすがイタリア……」
当然のように真昼間からワインを飲んでいる。
「そういえばさ、元々マフィアの家系に生まれた獄寺君はともかく、山
本君はどうしてイタリアのマフィアに入ってるんだ?」
「えーと、何でだったけな」
「山本、そんな大事なことを忘れるだと?! ……こいつは十代目と同
じ並盛中学出身で、十代目がボンゴレのことで困ってらした時にちょっ
かいを出してきたんだ」
ぶすっと不満そうに顔を歪めて言う獄寺に、ツナが顔を引き攣らせる。
「いやいや、むしろ俺が山本を巻き込んだというか……獄寺君も並盛中
からの友達だし、ほかの守護者も並盛中出身が多いんだよ」
「守護者?」
「守護者っていうのは、ボンゴレのボスに一番近い仲間のこと、かな。
ファミリーの幹部みたいなものだよ。俺の守護者は獄寺君と山本、それ
からあと四人――いや、正確には五人、いるんだ」
綱吉が獄寺と山本を示しながら説明する。
「その証として、ボンゴレのボスとその守護者に代々受け継がれる特別
なリングがあるんだ、けど……」
説明しながら、綱吉が恐る恐るリボーンを見た。
リボーンは最後のペンネを胃に収めると、何の感情も移さない黒い目を
二人に合わせた。
「そのボンゴレリングなんだが、実は先日の戦闘の時に調子がおかしか
ったから、メンテナンスに出していたんだ。昨日はそれが終わって、受
け取りに行くところだった」
「なるほど。その途中で襲われたってことか」
「ああ。ツナが襲われたのはリングを受け取る前だったが、ほぼ同時刻
に、メンテナンスをした科学者も襲われていたことがわかった」
「なっ……正一君は?!」
「無事だ、心配ない。だが……リングが奪われた」
「くそっ……やっぱり俺の足止めが目的だったか」
綱吉が悔しそうに拳を握った。
「襲ってきた敵はわかっているんですか?」
新一が尋ねる。その目はすでに、探偵の目をしていた。
「今朝捕まえた奴らはよその町から来た弱小ファミリーのもんだった。
大方、ボンゴレに敵対しているどっかのファミリーに雇われていたんだ
ろうな。今調べさせているところだ。おおよその見当はついているが、
リングをどこに隠されたかまではわからねー。……そこで、だ」
リボーンは言葉を切り、食後のコーヒーを一口啜った。
「お前ら二人に、ボンゴレリングの捜索と奪還に協力してもらいてぇん
だ」
一拍の沈黙。
そして綱吉たちは一斉に口を開いた。
「ええっ?! 助けてくれた二人をこれ以上危険な目に合わせらんない
よ!」
「リボーンさん! こんな奴ら信用していいんですか?! もしかした
ら敵のスパイかもしれませんよ!」
「こいつらともっと一緒にいられるのは楽しそうだけど、ファミリーの
ことに一般人を巻き込んでいいのか?」
「リボーン、あなたのことだから、何か考えがあるのかしら」
口ぐちに喋り出した者たちを、リボーンは視線一つで黙らせた。
「これはファミリーの問題だが、ボンゴレ全体にこの事態を知らせるつ
もりはない」
「えっ、それって……」
驚く綱吉とは反対に、新一と快斗が確信に満ちた微笑を浮かべた。
「つまり、大事にして他のファミリーに情報が漏れるのを防ぎたいとい
うことですね」
「もしくは、ファミリーの中にスパイがいる可能性もあると」
「ああ。そういうことだ。……どうだ? もちろん報酬は出す」
報酬があるということは、それは正式な依頼だ。
依頼と言われて、この魂まで探偵な工藤新一が断るはずがなかった。快
斗にしても、つり上がった口元が答えだ。
「その依頼、受けましょう」
2013/05/15
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