side 新一 元の身体に戻り、大量の課題を終わらせて帝丹高校に復学した新一は、幼馴染 への愛情が温かく優しいものに変わってしまったことに気づいてからもそれを 上手く伝えることができずに、今日までずるずる来ていた。 蘭のことは今までと同じように大切だ。ただ、いつまでも隣にいたいという欲 が消えてしまっただけで。 幼馴染は特に何か言ってくることはないけれど、このままに有耶無耶にするの も悪い。 今日こそははっきりさせなければ……。 そう意気込んで、帰り支度をしている幼馴染に声をかけようとした時だった。 「ら――」 「それで! ここでキッドがねっ――」 「きゃー! 素敵! うんうん、キッド様ならそうくるわよね絶対!!」 「私カッコいい俺様キッド大好きなのv」 カッコいい……キッド……大好き………… 蘭が、キッドを、好き―――? 呆然とした新一は、しかしすぐに我に返った。 「っ、だっ、駄目だー!!」 「えっ?」 「やば、新一君!」 「ら、蘭、オメー、よりによってキッドなんて……絶対にダメだ!」 「はあ?」 いきなり大声をあげた新一に首を傾げるも、蘭はハッとしたように園子と目を 合わせた。 「こ、これは……!」 「まさかヤキモチ! 勘違いして私に妬いてるとか!」 「そんなにキッド様を取られたくないのね!」 小声で話す2人に、新一は困惑する。何だか、2人の目がキラキラしている気 がする。 「え、えっと、蘭……?」 「大丈夫よ新一!」 「え? っていうかそういえば俺オメーに話が……」 「今から話しましょう! 私たちと!」 「私たちって……おい?!」 こうして新一は蘭と園子に両脇を固められ、強引に空き教室へと連れ込まれた のだった。 「これ、見て!」 蘭がバン!と薄っぺらい冊子を何冊か突きつける。 その勢いに少し仰け反りながらも新一が表紙をよく見てみると……… 白いスーツにマントとシルクハット、そしてモノクルをつけたキャラクター― ―怪盗キッドのイラストだろう――が腕に抱きしめる、可愛いけれどどう見て も男のキャラクター。 これはもしかして世に聞くBLとかいう奴だろうかと、新一は頬を引き攣らせた。 サブカルには疎いが、最近は大抵の本屋で堂々とそういう棚があるので、嫌で も目に入る。 幼馴染にそんな趣味があったなんて……と内心驚愕しつつ、知り合いと呼べな くもない人物がこういう趣味の対象にされていると思うと微妙な気分になった。 とろけるような笑顔で男を抱きしめている絵を描かれるなんて、あいつも気の 毒だなと生温い視線を向けていた新一だが、ふと、抱きしめられている方の男 の後頭部に、どこかで見たことのあるようなクセがついているのに気づいた。 「ん?」 これは……まさか………… 新一は嫌な予感がしながら、自分の後頭部に手をやった。 「っ?!!」 やたらとキラキラした目でこちらを見ている2人に、新一は言葉が出なかった。 はくはくと、口だけが動く。 そして園子の容赦ない言葉が決定打だった。 「これキッド様と新一君よ〜。よく特徴捉えてるわよね〜」 「な……え、は……」 さらによく見れば、表紙の隅に「R18」の文字がおどっていた。どこらへん がR18なのかは考えたくない。 「敵同士の怪盗と探偵、でも2人は対決を重ねるうちに惹かれあって……!」 「キッドの方は実際の情報がないから、年上だったり同い年で実は高校生だっ たり、俺様だったりヘタレだったり、色んなバージョンがあるのよ」 蘭が冊子をパラパラとめくりながら言う。 その時に一瞬ちらっと見えた裸の男2人が絡み合う描写に、新一は卒倒しそう になった。 「ら、蘭……なんてものを………」 幼馴染が、漫画とは言えそんなふしだらなものを読んでいるとは………。 記憶の中の純粋で清らかな幼馴染像がガラガラと音を立てて崩れていく。 「K新って言って、新一君が受けなのよ〜」 「う、受け……?」 「下になる方ってことよ! 多いのは綺麗系クール受けかしらね。たまに天然 可愛い系とかもあるけど」 「し、下……?」 何の、とは恐ろしくて聞けなかった。 「ほら、こっちも!」 園子に無理やり別の冊子を押し付けられる。 こちらの表紙はかなりマシで、背中合わせに立ったキッドと新一が思いつめた ような表情を浮かべている。 促されて恐る恐る開いてみると、こちらは小説であることがわかった。 「なになに………」 『名探偵は、俺のことなんてどうでもいいんだろ?』 『ちがっ……』 『俺はこんなに何度も招待状を送っているのに、名探偵は泥棒なんて、興味な いんだろ?』 『違うんだキッド……俺は、オメーのことが………!』 新一は苦しそうに顔を歪めた。 『名探偵……』 新一が目を伏せた一瞬のうちに、キッドは目の前に移動していた。両手を顔の 横で背後の壁に押しつけられ、そして気がついた時には、唇を塞がれていた。 『んっ……ふ、ぅ……』 深く合わさる唇の間から、新一のくぐもった声が漏れる。舌を絡められて、何 も考えられなくなる。 『ん、キッド………』 潤んだ瞳でキッドを見上げる。 『そんな顔して……知らないよ』 キッドの目に熱が灯ったのが、モノクル越しでもわかった。 『あっ……』 キッドが新一のシャツの合わせ目をするっと一撫ですると、ボタンがすべて外 れている。その魔法のような技に、新一はキッドの手をじっと見つめた。 『……何? そんなにこれが好き?』 新一の視線に気づいたキッドがにやりと笑って、口で手袋を脱ぎ、指を新一の 唇に這わせた。 『ん……』 唇を這う感触がくすぐったくて身じろぐと、今度はその指が唇を分け入って口 内に入ってくる。 『んぁ……』 『舐めて』 言われた通りに従順に指を舐める。 その間に、キッドのもう片方の手が新一のベルトをはずし、ズボンを下ろす。 『んっ……こんな、ところで………』 『誰も来ないよ』 キッドの手が下着の中に侵入してきて、新一のそこを触った。 『ああっ』 『もう少し硬くなってるよ?』 クスクス笑ったキッドに、新一は羞恥で顔に熱が集まるのを感じた。 『あん! あっ……や、ぁ』 激しく扱かれて、新一の脚ががくがく震えた。もう立っていられなくて崩れ落 ちそうになった時、キッドが密着してきて身体で壁に押し付けられた。促され るまま両手をキッドの首に回し、何とか身体を支える。 『あっ、だめ……も、イクっ……んっ、あああっ!』 新一が達するとすぐに下着を取り払われる。しゃがみこんだ新一に合わせて、 キッドも床に座り込んだ。 『おいで』 手を引かれて、キッドの上にまたがるように座る。すると、さっき新一が舐め た指が、後ろへと伸ばされた。 『やっ、何……』 『大丈夫だから』 中に侵入してくる指の異物感に、新一は眉を寄せる。 キッドは丁寧に入口を解し、指の本数を増やした。 『ん、んぅ……はぁ』 少しずつ、新一の息がまた荒くなっていった。 そして、キッドの指が、ある一点に触れた時だった。 『っ、あああ!』 身体がびくっと震え、突然の強烈な感覚に、新一は自分でも何が起きたのかわ からなかった。 『見ぃつけた』 『や、な……あっ! あん! そこ、やだぁ……』 『やだじゃないでしょ。新一また勃ってるよ』 『ん、ああっ!』 キッドは指を抜いて、新一を持ちあげた。 『あ、キ、ッド……』 キッドの熱いモノがゆっくりと入ってくる。 『ぅ、あ……』 『っ、新一、力、抜いて……!』 『んっ……んああ!』 最後は自分の体重でキッドのモノをすべて呑みこむ。 指とは比べ物にならないほどの圧迫感に、新一は震えた。 『あっ、あっ……やっ、も……』 『新一っ、俺の、ものに……なって……!』 『ああっ、ぁん! あっ、キッドぉ!』 「うわあああああああああああああ!!!!!」 空き教室に、新一の悲鳴が木霊した。 「何よ、うるさいわね」 「何よ、じゃねーよ!! 何だよこれはっ!!!」 「だから、K新(18禁)本じゃない」 「ぎゃあああああああ!!」 ぐらりと床に崩れ落ちた新一は、今見てしまったものの恐ろしさにガタガタと 震えていた。銃口を突き付けられても毅然としている名探偵が、薄い本一冊に ここまで恐怖を覚えるとは……恐るべし腐女子。 「大体何で俺がっ! キッドの野郎なんかと!!」 「そういうところが照れてるみたいで余計に仲良く聞こえるのよ」 「ありえねぇぇぇ!!」 (自分があのムカつく気障な野郎に、だ、抱かれて、あまつさえ女みたいに喘 いでいるだと?!!) 怒りやら絶望やら気色悪さやら色々なものが交ざりあって、新一は立ち上がる ことができなかった。 ああ、まるで幼馴染が突如として知らない女になってしまったようだ。 新一は床に手をついたまま遠い目をして嘆いた。 すると、それに気づいた蘭が、眉を寄せて困ったように笑う。 それは新一がコナンだった時に幾度となく見てきた切ない表情に似ていて、新 一はやっぱり蘭は変わってなどいなくて、今の今まで曖昧な新一の態度に無理 をしていたのだと悟った。 やはり、ここで新一がこれからの2人の関係をはっきりさせないといけない。 そう決意して口を開こうとした新一を、しかし蘭が遮った。 そして、幼馴染の口から出てきた言葉は、新一の理解の範疇を超えていた。 「ごめんね新一。私…………腐ってるの」side快斗
何かすみませ…… でも書いててすごく楽しかったですw 本気で気持ち悪がる新一も好きです。 2013/01/23 |