epilogue 「あら? 黒羽君、もう動いて平気なの……って、あなた工藤君?」 昼過ぎに快斗の診察をしに隣を訪れようとしていた哀は、ちょうど工 藤邸の門を開ける人物に驚いたように声をかけた。そして振り返った 青年に眉を顰める。 「ああ、灰原」 「やっぱり工藤君なのね。どうしたのその格好」 化粧とカラコン、それから無造作に髪をはねさせて、どうやら快斗の 変装をしているようだ。 「それが、今日ゼミの発表担当だったの忘れてたらしくてさ。単位や べぇっていうから、俺が代わりにやってきてやったんだよ」 「何やってるのよ……」 呆れ果てた様子の哀に、新一は苦笑する。 「まあいいんだよ。原稿は準備してあったし、代わりにレポート一つ 肩代わりしてもらうから」 「前から言おうと思っていたのだけど……あなたちょっと黒羽君に甘 すぎない?」 今も新一の手にはコンビニの袋があって、プリンやフルーツゼリーに カップアイスなど、快斗の好きそうなものかつ熱があっても食べやす いものがぎゅうぎゅうに詰まっている。 新一は照れくさそうに笑った。 「自覚はある」 「哀ちゃん。いらっしゃい。診察?」 「ええ。熱測るわよ」 部屋に入ってきた哀を見て、快斗がベッドの上で身を起こす。 「新一は?」 「先にキッチンに寄ってるわ」 それから数十秒もしないうちに新一が入ってきた。変装はすでに解い ている。 「ただいま。大丈夫だったか?」 「おかえり新一! 発表代わってくれてマジありがとな」 「気にすんな」 新一がさらっと快斗の額に触れ、前髪を掻き上げる。 哀は小さなアラーム音の鳴った体温計を抜き取った。 「37.8度。だいぶ下がってきたわね」 「よかったな。おやつ買ってきたから食べねぇ? アイスかプリンか ゼリー」 「やったぁ! 食べる! 今はプリンの気分」 「おっけ。灰原も食ってく?」 「いいえ、結構よ」 快斗の頭を一撫ですると、新一は部屋を出ていった。 「……いつにもましてラブラブね」 哀が半眼で言うと、快斗は邪気のない笑顔を浮かべた。それが純粋に 嬉しそうで、哀は文句を言う気が失せた。 「俺が弱るって普段あまりないからなぁ。新一も楽しいんじゃない? 俺の世話焼けて」 哀は聞き流しながら、てきぱきと血圧を測定し、ペンライトで口内と 目を診る。そして快斗用に調合した風邪薬をサイドテーブルに置いた。 「特に異常はなし。明日の昼までの薬を置いていくわ。午後にまた診 にくるから」 「無理して毎日来なくても大丈夫だよ?」 「即席で作った解毒薬なんだから、体調が急変してもおかしくないわ。 熱が下がったからと言って、油断しないで安静にしててちょうだい。 それに、貴重なデータが採れるし」 諌めるように捲し立てた哀だが、若干目がきらきらしているのに快斗 は気づいた。最後のが限りなく本音な気がする。 その時、新一がプリンとカフェオレを盆に載せて戻ってきた。 ちょうど診察道具をしまい終えた哀は立ち上がる。 「それじゃ」 「もう帰るのか?」 「ええ。これ以上この空気の中にいると無駄に消耗するから」 「?」 意味のわかっていない新一をそのままに、哀はさっさと出ていった。 「何だ?」 「俺たちの邪魔したくないってことだよv」 何だか微妙に違うような気がしながらも、快斗に急かされて、二人き りのおやつタイムに突入するのだった。 end. お読みいただきありがとうございました! リク内容:怪我なり病気なりで、何かの薬とマウス実験用のアポトキ シンの残りを誤って飲んだ快斗が幼児化し、チャンスとばかりに新一 に甘えまくり、元に戻ってからも結局いちゃラブで、哀ちゃんにため 息つかれる二人。 ……ということでした。甘いお話をご所望されてたようだったのです が、いちゃラブな二人ってどんなでしたっけ?(汗 快斗幼児化なんてせっかくのおいしいネタなのに、設定を活かしきれ なくてすみません……。 だいぶお待たせしてしまいましたが、リクくださったかづき様に捧げ ます。 2013/07/27 |