Epilogue
総長の命令を無視して反乱とも取れる行動をした過激派に罰則を科し、更生、あ るいはチームからの追放を命じたことで、この一件はとりあえず収束した。 そしてそれに関する黒猫の協力を世良から聞いた服部は、事の報告をしに、再び 第二図書室を訪ねていた。 「ちゅうわけで、あんたには感謝してんねん、けど……」 「あー、そういうの別にいいって。俺は好きで暴れ回ってただけだしな」 「はっとりぃ、それ食わねぇならもらっていい?」 「お、おう……」 「快斗、ほどほどにしねぇと本当に糖尿になんぞ」 「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと消費してっから」 「…………」 「おいカスこぼすなよ。俺の服に落ちる」 「難しいんだよ、パリパリ割れんだから」 「………………」 「しょーがねーな。ちゃんと掃除しとけよ。ゴキブリが出たらオメーのせいだ」 「一応今度ゴキ○ェット買ってくるか……」 「………………」 「本さわる前に手拭けよ」 「今日は本じゃなくて新一さわる〜」 「………なあ」 「そうかよ……っておい、口の端についてんぞ」 「うん、だから新一が取って〜」 「………なあ」 「うわバカ、顔寄せんなっ」 「んーv」 「………聞けやボケ!!!」 突然の怒鳴り声に、2人がぱっと服部を見る。1人は訝しげに、もう1人は不機 嫌そうに。 「何だよ。うるせーぞ?」 「そーだそーだ」 一様に眉を顰めて迷惑だと言わんばかりの2人に、服部はびしっと指を突きつけ た。 「お前らが何なんや!! さっきからイチャイチャしよって!!」 「はあ?」 「いちゃいちゃ?」 今度は2人揃って同じ方向にこてんと首を傾げる。 なまじ顔の造形が似ているからか、奇妙な感覚を沸き起こさせる光景だった。 だがそれよりも、服部が落ち着かないのは2人の体勢、というか、近さだった。 前回服部がここを訪れた時と同じ場所に、黒猫こと工藤新一は座っている。 問題は快斗の方で、この間はあんなにソファの隅っこに縮こまっていたというの に、今は凭れかかるように新一にべったりとくっついていて、頭を完全に新一の 肩に預けている。 新一も新一で、快斗の髪の毛が首元にあたってくすぐったいのか、時折身じろぐ 以外は、この近さを許しているようだ。 ちなみに、一昨日の過激派との件に対する詫びと礼を兼ねた差し入れのモナカを 食べていた最中も、快斗がその体勢を変えることはなかった。 その上、新一の首元には点々と赤い痕があって目のやり場に困る。隠し切れてい ない、というより隠す気もないようだ。 今朝から学校中でそのことが噂になっているのを、知らないはずはないだろうに。 「自覚なしかいな……」 がっくりと項垂れる服部に、2人はぱちぱちと瞬きを繰り返すばかり。 服部は諦めて、深い溜息をついた。 服部が辞去してから、2人は顔を見合わせた。 「ちょっとからかいすぎたか?」 「いーのいーのあれくらい。むしろ俺らのラブラブっぷりを少しは見習うべきだ と俺は思うね」 「ラブラブ言うな。……遠山さんとのことか?」 「そうそう。つき合って長いのに、実はキス止まりなんだよあそこ」 「へぇ……よく知ってんな」 「前に服部に鎌かけたから」 「なるほど」 新一は納得して、手元の本に再び目を落とした。 無意識なのか、片手は快斗の髪をくるくると弄って遊んでいる。 そんな新一の横顔を快斗はじっと見つめた。 「なあ、黒猫」 快斗の髪をいじっていた手が一瞬だけ止まる。 「……何だよ、ツバメ」 その呼称で呼び合うのは、昨日濃密に触れあってから初めてだった。 「もう、族潰しはやんねーの?」 「……さあな」 曖昧に濁すと、快斗は新一の前に置かれたマグカップへ視線を向けた。 「……もったいねー」 快斗がぽつりと呟く。 「黒猫、すげぇカッコよかったぜ」 それはオメーの方だ、と新一は心の中だけで呟いた。 すると、何を思いついたのか、快斗が急にパッと顔を上げた。 「オメーが俺のもんってことは、黒猫は黒燕のもんだよな?」 「……おい?」 新一の呼びかけを無視して、快斗が続ける。 「黒猫! 俺とコンビ組もうぜ!」 「はあ?」 「情報屋と族潰しの最強タッグ! 情報屋の仕事もして、ムカつく奴らは潰す。 な、どう?」 「どう、って……」 「オメーと一緒なら何でもできる気がするんだ」 新一は息を呑んだ。 それは図らずも、昨日2人背中合わせで戦った時、新一の頭に浮かんだことだっ た。 快斗と過ごす日常は今こうして手の中にある。 今度は、黒燕との日常を想像してみた。 (……確かに、楽しそうだ) 「……いいぜ」 「ホント?!」 快斗が腕を回して抱きついてくる。 ぎゅうぎゅう締めつけられて少し痛い。 「なあなあ、名前はどうする? コンビ名」 「コンビ名って、何か芸人みたいだな」 「今まで1人だったからなー。うーん、黒、情報屋、族潰し、鳥、猫、黒、ブラ ック……」 快斗が手当たり次第に単語を羅列していく。 新一が口を挟んだ。 「『ノワール』、なんてどうだ?」 「ノワール……フランス語で黒、か。シンプルで的確でわかりやすい……いいね」 快斗が黒燕の笑みを浮かべて不敵に笑った。 「俺ら2人で『ノワール』。……じゃあ、契約を」 快斗が言いながら新一の顎に手をかけると、その意味を悟って新一は瞼を下ろし た。 「オメーと一緒なら、絶対退屈しなそうだよな」 「もちろん。絶対退屈させねーよ」 そして、かぶりつくようなキスをした。 <fin.> ここまでお付き合いくださりありがとうございました!! 2013/01/13 |