(33)






















「なあ」

ゆったりとした足取りで、2人は街を歩いていた。
暗い路地に人は疎らで、誰も2人を気に留めることはない。

「世良の依頼って、もう終わったんだよな」
「ああ。っていうか、本当に愚痴の延長みたいなものでさ。正式な依頼ってわけ
でもなかったんだけどな。俺もちょっと暴れてみたかったし、ちょうどいいかな
って」
「……終わったから、戻るのか?」
「へ?」
「帝丹に、戻るのかよ」
「……………」

新一は目を丸くした。黒燕の目は相変わらず見えないが、声にどこか不安が滲ん
でいるような気がした。
そしてそんな声を、この黒燕が出すのは予想外だった。まだハットもジャケット
も、脱いでいないというのに。

「戻らねーよ」

その一言は自分でも驚くくらい、やわらかい響きを持っていた。

「ホント?」
「ホントだって。そんなにしょっちゅう転校すんのも面倒だし。大体――」

新一はにやりと笑う。

「こんなおもしれー奴がいんのに、今更戻れるわけねーだろ?」

黒燕は虚をつかれたように固まった。
それに新一がしてやったりというふうに笑うと、黒燕もようやく不敵な笑みを取
り戻した。




                 ***




足は自然と近い方の家へ向かっていた。

今日親いないから、とまるで誘い文句のようなそれをさらりと言われて、初めて
くる家に入る。もしかしたら本当に誘い文句だったのかもしれない。

とりあえず埃と泥と汗でまみれた身体をどうにかしようと、2人はシャワーを浴
びることにした。

「黒猫」

風呂場の前で、黒燕に呼ばれる。
黒燕は目の前に立っていて、新一は視線を感じながらじっと見つめ返した。

そっと、両手が伸ばされる。
その手は新一の頬に触れ、そのまま恐る恐る、フードへと伸びた。

ゆっくりと、フードを取り払われる。

広くなる視界。それと同時に、新一も黒燕のハットをそっと脱がした。思った通
りの紫紺の瞳が真っ直ぐに新一を見つめてくる。

「……新一」

名前を呼ばれて、新一は緩く微笑んだ。
この男に名を呼ばれることが、こんなにも満足感を得られることだとは思わなか
った。





「いっ、つ……」

順番にシャワーを浴びてから、2人は互いに怪我の治療をし合っていた。
快斗が新一の右腕を注意深く診て、湿布を貼る。

快斗の方も無傷とはいかなくて、いくつもの掠り傷や打撲の痕に、新一が薬を塗
ってやった。

快斗から借りたティーシャツは少し大きめで、新一が傷口を消毒してやっている
時に開いた襟ぐりから露出する肌色を快斗は思わず凝視した。

「あ……」

快斗が小さく上げた声に、新一は絆創膏を貼る手を止めて顔を上げた。
その視線はどうやら新一の首元に向けられているようで、そこに何があるのか、
新一はすぐに悟った。

不意に、快斗の顔が首元にすっと寄せられる。ちりっと痛みが走った。昨日つけ
られたばかりのキスマークの上にまた、色を濃くするように。

「こら」

ふわふわと揺れる髪が首元をくすぐって、新一は耐えきれずにくすくす笑った。

「制服で隠れねぇじゃねーか、そこ」
「いいの。俺のだって印つけてんの」
「何だそれ」

すると、快斗が見上げてくる。唇は意地悪そうに歪められていて、それが少し癪
だったが、同時に別の感情も湧き上がってきた。この男にこうして不敵に見つめ
られると、何だろう、わくわくしてくる。

「俺の、でしょ?」
「……ああ」

新一も同じ表情を浮かべて頷いた。

「けど、オメーも、俺のだ」

今度はこちらから顔を寄せて、唇を重ねた。
離れようとした瞬間ぐいっと引き戻されて、深く重なる。

「ん……」

長いキスの間にいつの間にか押し倒されていて、不埒な手がシャツの下にもぐり
こんできた。

「……ん…はぁ……」

シャツを脱がされると、新一も手を伸ばして快斗のシャツをまくり上げようとす
る。

「オメーも脱げよ……」
「ああ」

脱がし合って、抱き合って、その合間に何度もキスを交わす。

「んんっ」

こんなに近くで触れ合えることが嬉しくて、我慢できずに、互いを一緒に扱き合
って射精した。
だがこれ以上の幸福感が先にあると確信している2人は、息つく間もなく行為を
続けた。

「ん……つーかさ、やっぱ、俺が下なんだな」
「やだ?」
「や、別に」
「そ、よかった」

俺もうお前のこと抱きたくてしかたなかったんだわ、と快斗は言いながら新一の
後ろへ手を滑らせる。

「はっ、ぁ……んく……」
「力抜いて……」
「やって、るっつーの」

快斗の指が丁寧にほぐすが、気が急くのはお互い様だ。
指を増やされた時に新一が尋ねる。

「今、何本……」
「やっと3本入ったとこ」
「んじゃ、もういい……」
「えっ」

快斗が驚いたように新一を見る。

「いや、でも、もっとちゃんと慣らさないと……初めてなんだし」
「大丈夫だから、来いって」

強く言う新一に、もしかして初めてじゃないんじゃ、と嫌な考えが快斗の頭によ
ぎったが、みるみる赤面する新一に、そんな考えは吹っ飛んだ。
初めてだからこそ、互いに余裕がないのだ。

「早く……オメーを感じてぇ」
「うっわ……」

それ何て殺し文句、と呟きつつ快斗が体勢を変える。
尻に硬いものが宛がわれるのを感じて、新一は期待に震えた。

「いくよ」

低い声とともに、大きなものが中に押し入ってくる。
さすがにきつくて痛かったが、それが気にならないくらい、新一は快斗を求めて
いた。

「くっ、ぅ……はっ」
「っ……」

ゆっくりと快斗が腰を押し進め、やがて全部入りきる。

「はぁ、はぁ……」
「……新一」
「何だ?」
「オメーの中、すげぇ気持ちいい」
「バーロー、あたり前だ……」

苦しそうに息をしながらも不敵に笑い返す新一に、快斗は苦笑を浮かべた。額は
じんわりと汗で濡れている。

「ってわけで悪ぃんだけど、俺、我慢できそうにねぇ」

だからもう動いていいかと暗にお伺いを立てる快斗に、新一はふん、と鼻で笑っ
た。

「俺だって我慢できねぇよ。だって快斗が俺ん中にいるんだぜ」
「っ、新一……!」

律動が開始されて、その度に全身に走る痛みと苦しさとそして快感に、新一の理
性は霧散していく。

「ん、あっ、は……く、んんっ……」
「はっ……」
「ぅん……ぁ、ひ、ぁああ!」
「ん、ここ、か?」
「ああっ! ちょ、ま……」
「おっけ、ここね」
「ちょ、おいっ……ああっ! んああ、ふ、んっ!」

弱いところを集中的に擦られて、嬌声が上がる。口を塞ごうと腕を持ち上げると、
にこりと笑みを浮かべた快斗にそれを阻止される。

「ダメダメ、声聞かせろよ」
「んの……鬼畜っ」
「我慢しなくていいんだろ? 新一の全部、俺のもんだ」

その実快斗もかなり切羽詰まっていて、新一に持っていかれないように必死だっ
た。
それを悟って新一は強気に笑った。

「じゃあ……これでどうだっ」
「うぁ?!」

いきなり尻にぎゅっと力を入れられて、ただでさえきつい穴がさらにきつくなる。
ぎりぎりで理性を保っていた快斗は驚いて反射的に身を引こうとしたが、いつの
間にか腰に脚を絡められていたことに気づいた。

「へっ、気持ちいーかよ」

してやったりと見上げる新一が纏っている空気は、完全に黒猫のもの。勝負を仕
掛けてくる時の空気だ。

「……ああもう最高にいーね」

目が据わっている快斗に、新一はまずい、と我に返ったが、時すでに遅し。
本気になった快斗は激しく新一を揺さぶり出した。

「あっ、あっ! んっ、く、そっ……」
「へへっ、愛してるぜ」
「う、ぜっ」
「ひでぇなぁ」

今更だが、そう言えば愛のコクハクは互いにまだしていなかった。
悪態をつきながらも、自分を容赦なく突きあげてくる男に、胸がつまる。

「俺、だって……愛してんぜバーロー」
「はいはい」

負けずに告白し返したのを適当に流す快斗だが、その顔はだらしなくにやけてい
た。

「んん……はっ、ぁ、んあ……俺もう、イきそー」
「くっ、俺も……」

快斗の手が新一のものに伸ばされ、指を絡ませられる。

「ぁあっ、んっ」
「新一っ……」
「っ、あっ、んっ、ぁあああ!」
「ふ、っ」

2人ほぼ同時に達して、荒い息をする。

「はぁ、はぁ……あー、ヨかった……」
「ふぅ……」

息を整えて、2人はしばし余韻に浸ってじっとしていた。

「おい、快斗」
「んー?」
「いつまで挿れてる気だよ」
「んー」
「ったく……」

俺はもう疲れた、とそっけなく言って、新一は目を閉じた。

「そーいやさ、新一」

呼びかけられて億劫そうに瞼を上げると、快斗がにやにやと嫌な笑みを浮かべて
新一を見下ろしていた。

「さっき喧嘩してた時、俺に見惚れてただろ」
「は? 見惚れてねぇ」
「いーや、絶対見惚れてたね」

自信満々に言い切る快斗に、やってられないとばかりに新一は溜息を吐いた。

「俺がオメーの視線を間違えるわけねーもん」
「へぇ」

再び目を閉じながら適当に相槌を打つが、その時新一の心臓は妙な拍の打ち方を
していた。

見惚れていたのは本当だった。

薄暗闇の中で一度だけ見たことのあった華麗な戦闘スタイル。それを明るい中で
初めて見て、新一は気分が高揚するのを自覚した。
大胆で派手な動き。それでいて軽やかで無駄を感じさせない攻撃。
いつまでも見飽きない。

閉じた瞼の裏にその光景を思い出しながら、自分が微笑を浮かべていることに新
一は気づいていなかった。
そして当然、穏やかなそれを見て快斗が赤面していることにも。


















えろくないエロを目指しました。

次で終わりです。

2013/01/10