Prologue








駅に面した大通りは、明るい店が立ち並び、買い物客の賑やかな話声やネオン
の明かりで輝いていた。歩く者の顔に浮かんでいるのは笑顔、そして彼らの歩
調はリラックスしていた。

そこからたった2本、奥の道へ進むと。

壊れかけた電灯の下、遠くに聞こえる喧騒とは裏腹に、不気味な静けさが浸透
していた。
酒瓶が転がる暗い路地。

暗闇の中、さらに闇が深い方へ深い方へと進むうちに、一つのシャッターの隙
間からぼんやりと明かりが漏れている建物に辿り着いた。中からは男たちの声
が聞こえてくる。
中では酒盛りが行われていた。

「そういやお前、クラスにいるっつってた金持ちの坊ちゃんはどうしたよ」
「ちょっと脅したら財布差し出してきましたよ。ちょろいもんです」
「へへ、そりゃお前の顔見たら普通の奴はビビるわな」
「まあ、学校全体を取り仕切ってる総長には敵いませんけど」
「そうだなぁ。俺たちももっとチームをでかくした方がいいな」

調子よく喋っていると、不意に、カタリとシャッターが音を鳴らした。

「……何だ?」

一番シャッターに近いところに座っていた一人が顔を上げる。

「どうした?」
「いや、今シャッターが揺れた気がしたんすけど……」
「風だろ。今夜は台風が来るって確か言―――」

しかしその言葉が最後まで言い切られることはなかった。


ガッシャァァン


突如としてシャッターが吹っ飛び、近くにいた数人は巻き込まれて下敷きにな
った。

「っ?! な、何だ?!」

中にいた男たちが一斉に顔を上げる。
シャッターの一部が完全に破壊され、暗い大きな穴の中から、一つの影がゆら
りと浮かび上がる。

「だっ、誰だ!!」

立ち上がった男たちは、すでに各々武器を手にしていた。鉄パイプ、アーミー
ナイフ、ナックル、金属バット等々。
殺気だった彼らの前に、穴をくぐって一人の少年が現れる。

「……え、一人……?」

黒いパーカーを羽織り、深くかぶったフードで顔を隠している。
だぼっとした服のため体格はわかりづらいが、背丈も別段高いわけではなく、
ひょろりと伸びた脚を見ても、厳ついとはとても言えない。
見た目だけで言えば、あまりにも場違いだった。

「おいテメェ、俺たちが誰だかわかってんだろうなぁ」
「何てことしてくれやがる」
「修理代だけじゃ済まねぇぞ!」

「…………」

一番奥に置いてあった、明らかに持ち込まれた古臭いソファに腰掛けていた男
が立ち上がる。男は他の不良どもの中でもひときわ大きく、厳つい顔つきをし
ていた。

だが少年は一言も喋らないどころか、男を無視してあたりを見回しているよう
だった。その態度に周りの男たちが気色ばむ。

「何とか言えやコラァ」
「…………19人、か」

ぽつりと呟いて、少年はふっと口を緩めた。

「3分、だな」
「あ゛?」
「何意味のわかんねぇこと抜かしてんだテメェ」

腕時計を見ている少年に、一人が近づいた。
胸倉をつかもうと手を伸ばして―――

男の動きが止まった。
そしてゆっくりと、地面に崩れ落ちる。

ドサッ

奇妙な静寂が辺りを支配した。

「……て、」

誰かが口を開く。

「テメェェェェ!!!」
「何しやがるっ!!」
「死ねぇぇ!!!」

一斉に、男たちが少年に殴りかかった。

押し寄せる波に、少年はふっと、笑みを浮かべた。






静かになった室内には、男たちの屍――もとい、身体があちこちで折り重なる
ように転がっていた。
その中央に、あくまで緩い空気を纏って立っている一人の少年と、ソファの前
に立ち尽くす一人の男。男は倒れている仲間たちを前に動くことができなかっ
た。少年からは殺気の欠片も感じられないというのに、まるで本物の暗殺者を
前にしたかのように、身体が震える。

「なぁ」

初めて、何かを伝える意図を持って、少年が声を発した。
その平坦な口調に、男はびくりと肩を震わした。

「テメェがこのチームの頭か?」

男はただがくがくと頷いた。

「ふぅん」

少年が軽い足取りで男に歩み寄る。途中に転がっている身体を律儀に避けてい
る。
目の前に立った少年は、男よりも小さかった。平均以上の背丈はあるだろうが、
何より細い。こんな女のように華奢な少年に仲間を瞬殺されたなんて、信じら
れない。

少年から威圧感のようなものは一切感じられなかった。むしろ、本当にこんな
強烈な存在が自分の前に立っているのかと疑うほど、存在感がなかった。

「そんじゃ。テメェのチームは俺に潰されたってことで」
「なっ……」
「広めろ。他の不良どもにもな」

そう言った少年は黒いパーカーを翻し、一瞬にして視界から消えた。

そして驚きに目を見開く間もなく、男は衝撃を感じて意識を失った。





「おっと、10秒余っちまったぜ」

腕時計を見て呟くと、少年は入ってきた時同様シャッターの穴をくぐり抜け、
そして闇の中へと姿を消した。



















中二全開(キリッ

のんびり書きたいシーンを書いていく感じで連載します。
甘さはあまりないかもです。






2012/10/08