『成田空港行きの飛行機は、三十分後に搭乗を開始致します。C18番 ゲートにお越しください』 アナウンスを聞き流しながら、二人は空港のカフェでコーヒーを飲んで いた。 「ようやく日本に帰れるな」 「ほんと、長い三週間だったぁ……」 快斗があくびをしながらうーんと伸びをする。 ローマでのショーに加え、昨夜の潜入・奪還作戦の準備でここ一週間、 ほとんど寝ていないのだ。 「お土産もちゃんと買ったし」 哀ちゃんにはあれとあれとあれでしょー、青子と蘭ちゃんたちにはあれ でー……とぶつぶつ呟きながら、買ったものとお土産リストを頭の中で 照らし合わせて確認している。 ちなみに博士には普段はしないような、ちょっと個性的でハイセンスな ブランド物のタイを買った。 野郎どもはお菓子でいいや、と適当に選んだ。個別に頼まれたものはし っかり手に入れたのだから、十分だ。 「さ。そろそろ行くか」 コーヒーの最後の一口を飲み干して、新一は立ち上がった。 「ぅえっ、ちょっと待っへっ」 まだ脳内で土産物の確認をしていたらしい快斗は、皿の上に残っていた ドーナツの欠片を慌てて頬張った。 「ハハッ、言えてねー」 新一が振り返りながら笑う。 すると、快斗が慌てたように目を見開いた。 「ひんいちっ」 「? ぅわ!」 「っ」 誰かにぶつかってしまい、新一は慌てて前を向いた。 「Mi Scu……」 謝ろうと発した言葉が途切れる。 ドーナツを飲み込んで追いついた快斗も、相手を見て固まっていた。 「鳥……?」 不機嫌そうにむすっとした端整な顔の青年の頭には、黄色い鳥がちょこ んと座っていた。ぬいぐるみのように可愛らしいが、おもちゃではない、 本物だ。 おまけにすらっとスマートにイタリアのデザイナーズスーツを着こなし た青年の腕には「風紀」と書かれた腕章があり、アンバランスというか、 個性的というか、奇妙というか…… 「……君たち、日本人かい」 戸惑っていた二人に、青年がぼそりと問う。 「あ……はい。すみませんでした。よそ見をしてて」 「別にいい。僕の方こそ、気が散っていた」 そういう青年の手には携帯が握られており、画面を見る限り通話中のよ うだった。ちらりと一瞬見えた電話相手の名前は「赤ん坊」。赤ん坊と どうやって電話で会話するのかは不明だが、おそらく相手のあだ名なの だろう。 「それじゃ……」 軽く会釈して、新一と快斗は立ち去ろうとした。 「ねぇ」 数歩もいかないうちに呼び止められる。 「……何ですか?」 二人は振り返った。 青年は恐ろしいほど澄んだ目で二人を見据える。 「…………」 「…………」 「…………」 呼び止めたきり何も言い出さない青年に、二人は首を傾げた。 「えと、俺たち、そろそろゲートに向かわないと……」 困ったように眉を下げて言うと、青年はようやく口を開いた。 「靴……」 「え?」 「……靴紐がほどけているよ。それと、口の端にチョコレートがついて る」 新一は足元を見、快斗は口元を覆った。 「あ……」 「どーも……」 もう一度会釈をすると、青年はふん、と鼻を鳴らしてつかつかと去って いった。 「「…………」」 二人は無言でゲートに向かいながら、横目で目を合わせる。 二人とも、唇は奇妙に歪んで引きつっていた。 (何だよ今の奴……?!) (殺気垂れ流しだったんですけど!!) 目で会話しながら、足早に搭乗口に向かう二人だった。 その半月後、新一と快斗それぞれの口座に突然、海外からの高額の入金 があり、そのさらに数ヶ月後、黒いスーツに身を包んだ茶髪の青年が工 藤邸の前に現れるのだが、それはまた別のお話。 ここまでお付き合いいただきありがとうございました!! 初めてのクロスオーバー小説で色々と難しいところもありましたが、 皆様の温かい応援のおかげで無事完結させることができました。 最後に。 雲雀恭弥(ひばり きょうや) ボンゴレ守護者の一人。元・並盛中学の風紀委員長で、並盛町一帯を牛 耳る。年齢不明。ボンゴレで最も恐れられている男。群れるのが嫌い。 常にトンファーを持ち歩いている。黄色い小鳥「ヒバード」を連れてい る。 2013/07/01 |