とりあえず落ち着いて三人がソファに座ってから、工藤新一がため息混じりに話し
始めた。

「はぁ。快斗、この人はルパンさん」
「三世な〜」
「3年前のヴェスパニアの事件の時に、その、偶然協力した人だ」
「ヴェスパニアって……じゃあやっぱり……」
「ああ、コナンの時だ」
「何で!」

 情報がどこから漏れたのか。

 厳しい顔になった快斗と対照的に、ルパンがのんびりと言った。

「だぁいじょ〜うぶ。おじさん敵じゃないし、単にうちのチームが優秀なだけ」
「味方でもないけど」

バッサリ切ったのは新一だった。くははは、と耐えきれないようにルパンが笑った。

「言ったでしょう、次は捕まえると」
「ほんっと、容赦ないところは変わってねぇなぁ」
「ところでどうしてここに?」
「近くまできたからついでだよ。新聞に活躍が載ってたぜぇ」
「あー、まぁ。今朝はその事情聴取で……」
「なぁるほどなぁ」

 新一がルパンとテンポよく会話しているのを横で聞きながら、快斗は下降していく
気分を隠せないでいた。
 いや、もとより隠すつもりがないのか、眉はあからさまに寄せられ、口はへの字に
なっていた。
 隣に座る新一が宥めるように快斗の膝をぽんぽんと優しく叩いた。

「でも探偵くんに双子がいたなんて知らなかったぜぇ?」

 ルパンの方も、探偵にそっくりでありながら同業者のような匂いを持つ青年に興味
があった。

「血は繋がってないですよ」

そんなこと知ってるでしょう、と新一は言った。そして興味深そうに快斗の不機嫌面
を見るルパンに、にっこりと笑顔を浮かべて、

「ひみつです」

とのたまった。


                   ***


「ん〜、あの探偵クンがなぁ」
「何がです?」

 新一は快斗を諭して、一人でルパンを玄関まで見送りに出ていた。

「缶ジュース一本でも泥棒を許さなかったような潔癖な探偵クンが、俺の同業者を傍
に置いていることが解せねぇのさ」

 新一はにやりと口角を上げた。

「やっぱり気づいてましたか」
「あーたり前よぉ。一般人にあんな気配纏えるわけねぇよ」

 あんな、殺気のような、あるいは潜むような気配は。

「でも惜しい。元、ですよ」
「ほぉ。足を洗ったのか」

 足を洗っても、一度裏の世界に染まればどうしても匂いは残るものだ。
 あるいは彼は、あえてその匂いを消すつもりがないのかもしれない。

「でも勘違いしないでくださいね。足を洗ったかどうかは関係ない。俺の隣は、あい
つがまだ怪盗だった時から、あいつだけのものと決まっていた」

 そこに至るまで様々な葛藤があったのだろう。お互いに。
 ルパンはまたくはははと笑い、何も言わずに工藤邸を去った。

「若いねぇ」

 そしてあの2人が何だか、ひどく羨ましく思えるのだった。



                  ***


「……新一」

 家の中に戻ると、不満そうな、けれど心配そうな表情を浮かべた快斗が出迎えた。
新一は安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だ。悪い人じゃない」
「でも泥棒じゃん!」
「お前だってそうだっただろ」
「うぅ……」

 新一は苦笑した。

「あの大泥棒ルパンの孫だぞ? お前なら憧れると思ってたけどな」
「憧れてるよ! ……聞いたことある。相棒は凄腕のスナイパー、チームのメンバー
には侍のような剣士や詐欺師の女もいたはずだ。ICPOに専任の警部がいるとも」
「ああ、全員会ったなそういえば。銭形警部はただものじゃねぇ」
「警部の方がかよ」
「だってあの人俺の麻酔銃食らって1分足らずで目が覚めたんだぞ?!」
「それは……確かに」
「だろ?」

 話が逸れた。

「……能力的には、お前とルパンさんは似ているところがある」

 一転して真剣な顔になった新一が、静かに話し始めた。

「けど! お前はあの人とは違う。それに、俺が本気で勝負して楽しかったのも、逮
捕することより一緒にいたい気持ちが勝ったのも。……背中を預けられるのも。全部、
お前だけだから。そうだろ?」
「……うん」

 小さく頷くと、快斗はゆっくりと新一を抱き寄せた。
 素直に抱き寄せられた新一は苦笑しながら背中に手を回した。

 何も心配することはないというのに、たまに不安になるのだ、この男は。

 そろそろ恋人の作った昼食を食べたいと思いながら、もうしばらく好きにさせてや
ることにした。


















〜おまけ〜




 数日後。

「新一〜〜〜!!」

 帰宅すると、突然走り寄ってきた快斗に飛びつかれた。

「峰不二子に連絡先もらってたってどゆこと?!!」
「え゛っ」

 なぜそれを、と言いかけて慌てて留めた。しかし時すでに遅く、快斗の目つきが剣
呑になっていく。

「新一……まさか」
「って違う違う! 何も疚しいことはないから!」
「じゃあ何で」
「……役に立つと思ったんだよ。組織戦で何かあった時、あの人のコネを使えばパス
ポートなしでも外国に飛べるしな」
「新一……」

 それはきっと、半分は快斗のためだったのだろう。怪盗キッドという裏の顔のせい
でFBIやICPOを頼れない快斗のために、別の繋がりを作っておこうとしたのだろう。

「ってかどこでそんな情報……」
「さっきその人から電話きたよ」
「え」
「『ルパンが突然お邪魔して悪かったわね。またカラダ調べさせてね』だって」
「…………」

 しっかり声帯模写して伝えてくる快斗の視線が痛い。

「カラダ調べるって何のこと」
「いや、アポトキシンのことを色々とだな……」
「潜水艦の中で二人っきりで?」
「えっと」

 顔が怖い気がする。

「新一〜? ヴェスパニアの事件、詳しく話してくれるまで今日は離さないから
な〜?」
「お、おい!」

 新一はいつにもまして強引な快斗に引きずられていった。その日新一が部屋から
出られたかどうかは……二人だけが知っている。
















<fin.>












昔書いたのを発掘。
包容受け新一が好き。



…でも密かに新一=コナンの情報流したのは
キッドじゃないかと思ってる……。