いつもの犯行をとっとと終わらせて、ハングライダーの着地地点に向かうと。

「……ん? 名探偵?」

予定していたビルの屋上に、見慣れた人影がある。
今夜の警備に新一が口を出している様子はなかったし、現場にも白馬しか見かけ
なかったから、不参加だと思っていたのだが。

この近くで殺人事件なんてあったか? と首を傾げつつ、屋上の反対端に優雅に
降り立つ。

「これは名探偵。今夜は一体――」
「……てめぇ」
「へ?」

物凄い形相でキッドを睨みながら、つかつかと近づいてくる新一。その気迫に押
されて、思わず後ずさる。と言っても元々端にいたので、数歩でフェンスに背が
ぶつかった。

「あ、あの、名探偵――」

それ以上近寄るとさすがに顔が見えてしまう、というところで新一はぴたりと止
まった。

「勘違いすんじゃねぇ。俺は別にテメェの顔が見てぇわけじゃねぇ」
「え、えーっと……」
「でも俺よりカッコよかったら地味にムカつく。ああでも、ブスだったらそれは
それで嫌だ……! この俺が、ブスに、あんな……!!」
「あ、あの……?」

手を握り締めてぎりぎりと歯を食いしばりながら何やら呟いている新一は、はっ
きり言って変だ。いつもの冷静さはどうしたクールな猫かぶり探偵、とキッドが
内心ツッコミを入れていると、新一が唐突に顔を上げた。

「大体テメェが……! 俺にばっかり盗った宝石を返すから……!」
「え? オメーに手柄やってんだろ? 俺が認めた唯一の名探偵だし」
「っ、だから! そういう言い方が勘違いされんだよ!」
「勘違い?」

キッドが問い返すと、新一はぐっと言葉に詰まった。

「お、まえ、の………」
「俺の?」
「〜〜〜〜っ、オメーのせいで、蘭が、く、腐っちまったじゃねぇかー!!」
「……腐った?」

それはあれだろうか、賞味期限を忘れて冷蔵庫の奥の方に放置していた野菜が腐
ってた的な……いやいや、蘭ちゃんが野菜なわけないし……とずれた思考に走り
かけたキッドは、慌てて思考の軌道修正をした。

そういえば、と最近の幼馴染との会話を思い出す。
女の子が腐っているということは……そういうことだろうか。

「ああ、もしかして名探偵、あれの存在を知っちゃったんだ」
「!! オメー、知ってたのかよ?!」

新一の言葉を思い返すと、キッドと自分の組み合わせがあることを幼馴染から聞
いてショックを受けたといったところだろう。

「まあな。俺も最近知ったんだけど」
「何で平然としてんだよ?! 俺と、オメーだぞ?!」
「まあ……俺も最初はショックだったけど。その後は別のことに色々ショックと
いうかごにょごにょ」
「はあ? 何だって?」
「いやいや、何でもねーよ」

まさかK新の18禁漫画を読んで、鼻血を出した上勃ったなんて知られたら、生
きて帰れる気がしない。

「でもさ、それは名探偵のせいでもあるんじゃねーか? あんなに熱心に追いか
けられちゃー、勘違いされてもおかしくねーって」
「はあ?! 俺は探偵なんだから怪盗を追いかけんのはあたり前じゃねーか!
それよりオメーだって、わざわざ俺のとこに宝石持ってきやがって……俺が別の
事件で不参加の時だって、家に届けにくるしっ。犬かオメーは」
「だって別の要請が入ってこっちに来れなくなると、名探偵すげー落ち込むじゃ
ん? 俺に会えなくて」
「別にオメーに会いたいわけじゃ……っておい、何で俺が落ち込んでるって」
「あ、やべ」
「テメェ! 盗聴器しかけてんな?! ストーカーかっ!!」
「好敵手の動向を探るのは怪盗として当然だろ?」
「開きなおりやがった……!」

新一が信じられないというように一歩下がる。その少し怯えた様子が、あの漫画
に描かれていた新一に重なった。

「なあ、名探偵」
「何だよ」
「オメーが読んだのって、どんなやつだった?」
「なっ?!」
「ほら色々あんだろ? 軽いのだと友情寄りとかほのぼの系とか。シリアスとか
甘いのとか。……がっつりエロとか」
「っ」
「なるほどエロか」
「エロ言うな!」

思い出してしまったのだろう。ガタガタと震えだして、がっくりと膝をつく。

「ぅああ……俺が、この俺が、ブス怪盗なんかに……」
「おい、誰がブスだコノヤロー」
「俺よりカッコいいわけねぇだろ?!」
「何そのナル発言!」

キッドが深い溜息を吐くと、新一が小声で呟いた。

「大体、俺がキッドに抱かれるとかありえねー。キモい」

キッドの耳はその呟きをしっかりと捉えた。そして何かよくわからない対抗心が
むくむくと起き上がる。

「……へぇ? じゃあ試してみる? 本当にキモいか」
「な、何言ってんだよ」
「俺が読んだの鬼畜無理やり系だったけど、名探偵すっげぇ感じてたぜ?」
「は、ありえねぇ。絶対萎える」
「証明してみろよ、探偵さん」

言うや否や、キッドは新一をその場に押し倒した。

「お、おい……こんなところで……」
「誰も来ないって」

そのやり取りが小説の中に出てきた台詞とかぶって、新一はそのシーンを思い出
してしまった。
肌を撫でられる感覚に、嫌悪感を覚えるどころか赤面してしまう。

「ん……」
「なんだ、満更でもなさそーじゃん?」
「そんなことな、あっ」

乳首を甘噛みされて、その言い知れない感覚に身体が竦む。

「やめろって……そんなとこ……んっ」
「ふぅん。じゃあ次はこっちな」

一瞬で下半身の衣類をすべて取り払われて、夜気が肌に冷たい。

「この上に寝て」

促されて、キッドが敷いたマントの上に素直に移動した。すぐに手の動きが再開
される。

「んっ、キ、ッド……ダメだって……」
「うっわ、いつも一人でやってる時そんな顔してんの、名探偵?」
「してなっ……ぁっん、はぁ……」
「やべー……実物のが100倍エロい」
「もっ、イクっ……! ああっ」

新一が出したものを手で受け止める。

「萎えるどころか気持ちよさそうだったけど?」
「っ、うるせー、生理的なもんなんだからしかたねーだろ。……そういうオメー
こそ、」

新一がちらりとキッドの下半身を一瞥する。

「俺のこと触っただけで勃ってんじゃねーか」
「……ああ、そうだな」
「え? って、ちょっ!」

キッドは再び新一に覆いかぶさると、唇を合わせてきた。

「んっ、ちょ……ふ、キッド……!」

入り込んでくる舌に、新一はたまらず鼻にかかった声を上げる。
その間、キッドは手の中に溜めた精液はそのままに、右手を新一の奥へと進めた。

「ん?! キ……んんっ」

入り込んでくる異物感に抗議するようにキッドの肩を叩くが、キスが深くなるだ
けで効果はない。

「んっ、ふぁ……」

入口を入念に解されて、感覚に慣れてきた新一がもどかしげに首を振る。

「……何? ほしいの?」

意地悪く笑んだキッドを、新一は睨んだ。

「……そんな顔したって、煽るだけだって」

キッドは指を抜くと、自分の前をくつろげる。気づいた新一が青くなった。

「ちょっ、それは無理……!」
「何だよ、自分だけ気持ちよくなって」
「最後までやるなんて聞いてねー!」
「最後までやらないなんて言ってねーし」

言いながら、キッドは自分のモノを押し当てた。

「ふっ、んん……」
「っ、力抜けよ」
「くっ……ぁ、最、悪……」
「最高、の間違いじゃ、ねー?」

全部入ったのを確認して、ゆっくりと動き出す。

「ぅあ、うご、くな……んっ」
「無理。名探偵の中、気持ち良すぎ。……想像以上」
「想像って何だ……っ、ん、ぁああっ」
「ここか」
「やっ、あ! んぁっ」
「もっと啼いていいよ」
「ああっ! は、やだ、キッドぉ」

新一は自分でも気づかないうちにキッドの首に腕を回していた。

「っ、すっげ感じてんじゃん……新一」
「んっ、誰のせいだっ……あっ」
「俺のせいだね……ホント最高」
「んああぁ」

そして2人は場所も状況も忘れ、同時に果てたのだった。



                 ***



「……悪夢だ」

新一はがっくりとソファに沈みこんだ。

「なーに言ってんだよ今更。俺ら相性よかったじゃん」
「うるせぇ黙れ」

目の前に腰掛けている学ランの男は、数日前新一を抱いた怪盗キッドの正体だ。
あの時も顔はばっちり見ていたが、相手が自分と同じ高校生だったことに喜べば
いいのか嘆けばいいのか、新一にはもはやわからなかった。

だがそれよりももっとわからないのは、キッドに抱かれて正直とんでもなく気持
ちよかったことに、安心するべきか絶望するべきか。

「そこは安心しなよ」
「人の心を読むなバ怪盗」
「だから黒羽快斗だって」

憮然とした様子の新一に、キッドもとい快斗は深い溜息を吐いた。

「いい加減認めろよ。俺に抱かれて気持ち良かったって」
「ぐっ……」

新一とて、気持ち良かったことを否定しているわけじゃないのだ。むしろ問題は
怪盗の態度だ。

「認めねぇ。だってオメー絶対調子乗るじゃねぇか」
「それって認めてるようなもんじゃ……」
「あ゛?」
「いや……っていうか、調子乗るに決まってんだろ? 名探偵にそんなこと言っ
てもらえたら」
「っ、だからっ、オメーまた隙を見て俺を抱こうとするだろうが!」
「え、ダメなの?」

きょとんとした快斗に、新一は押さえていたイライラが爆発した。

「ダメに決まってんだろーが! 俺はオメーのセフレになるつもりはねぇ!」

すると快斗はもっと目を見開いて、それから怒鳴り返した。

「はあ? 誰がセフレになってくれって言ったよ?! 俺は恋人になってくれっ
て言ってんの!」
「え」

途端に、居間に静寂が訪れる。

「……え、今……」
「……好きでもない男のこと抱けるわけないだろ」
「え、じゃあ……」
「新一のことが好きだって言ってんの。新一は? 俺のこと好きだからあんなに
簡単に抱かれて、気持ち良かったんじゃないの?」
「……あー、えっと……」

口ごもりながら、頬に熱が集まるのを感じる。

「その…………たぶん」

目を逸らしてぼそぼそと言うと、快斗はクスクス笑い出した。

「……何だよ」
「いやね? ホントに同人誌みたいに怪盗と探偵がつき合うなんて、と思ってさ」
「……ほんとだな」

つられて、新一も苦笑を洩らす。

幼馴染に同人誌を見せられて愕然とした時は、まさかこんなことになるなんて思
ってもみなかった。

快斗がふと何かを思い出したように、にやりと笑う。

「俺、K新18禁漫画読んだ時、鼻血出して勃った」
「おま、変態!」
「なあ、あそこに描かれてた鬼畜拘束プレイ、今度やってみてもいい?」
「最低!」

早速、ちょっと早まったかも、と頬を引き攣らせる新一だった。
























これシリーズ化したいな……


2013/01/25